アニメ「かげきしょうじょ‼」が描いた理想と、ミイヒらが示す現実。『痩せ姫』刊行5周年に思うこと【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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アニメ「かげきしょうじょ‼」が描いた理想と、ミイヒらが示す現実。『痩せ姫』刊行5周年に思うこと【宝泉薫】

 一方、この葛藤を5年10年、あるいはもっと長く抱え続ける人も少なくない。そういう人たちから見れば「かげきしょうじょ」の彩子同様、安倍やミイヒもまた「そんなに簡単ではない」と言いたくなるケースなのではないか。

 そんななか、生まれた思想に「プロアナ」というものがある。「プロ(支持)アノレクシア(拒食)」の略で、過食嘔吐なども含めた拒食を生き方のひとつとして肯定し、共存していこうというものだ。また、もうひとつ「プロミア」という思想もあり、こちらは「プロ(支持)ブリミア(過食)」の略。最近流行りのプラスサイズモデルなどはこの思想の体現者なのかもしれない。

 プロアナについては、筆者が2016年の晩夏に上梓した『痩せ姫 生きづらさの果てに』のなかでも紹介した。人と場合によっては、生きづらさの軽減に役立つと考えるからだ。そもそも「痩せ姫」という言葉自体、痩せることによって生きづらさと葛藤するような女性たちへの偏愛をかたちにしたものなので、この本もまたプロアナ的だといえる。

 それから5年、多くの人に読まれ、今なお、読まれ続けている。ありがたく思うとともに、こういう思想の需要についても実感させられてきた。

 また、5年もたてば、亡くなる痩せ姫も、卒業していく痩せ姫もいる。もちろん、葛藤を続ける痩せ姫もいて、人生は本当にさまざまだ。本のなかで「カリスマ痩せ姫」としてとりあげた米国在住のアシュリーも、BMIひとケタとおぼしき極度の痩身のまま、SNSで健在ぶりを示している。

 相変わらずわからないのは、葛藤の時期が一過性で終わる人と長く続く人の違いだろうか。家族関係のゆがみ具合や性的虐待の有無などが関係していそうだが、明確な基準はない。

 一方、わかることもいろいろあって、そのひとつが健康という概念の曖昧さだ。世間における健康と痩せ姫にとっての健康にはズレがある。人はもともと、誰もが何かしら不健康なことをしているものだが、痩せ姫の場合、生きるために不健康なことをするという傾向が特に強いのだ。

 たとえば、自発嘔吐のひとつにチューブ吐きというものがある。本のなかでは、以前より広まりつつあるとしながらも、その危険さを伝えるこんな言葉も紹介した。

「生半可な気持ちでこっちに来ると、死ぬより苦しい地獄がある」「知ってしまった今はやっぱり教えてはいけない気がしてしまう」

 どちらもネットで見つけたものだ。しかし、最近はこういう警告的なメッセージを見かけることが減った。逆に、ますますカジュアルというか、気軽に試したり、会得したりするケースを目撃することが増えたのである。なかには親公認のもと、やっている人もいたりして、限られた少数派のための秘術から、かなりの人が使えるスキルへと変わりつつあるのではという印象さえ受ける。

 これはやはり、痩せることへの憧れや執着というものが、それほどまでに激しく根深いからだろう。人と場合によっては、命と引き換えにしても手に入れたいものなのだ。チューブ吐きの人に限らず、痩せ姫には大なり小なり、そういう必死で切実な気持ちがあるのではないか。

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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  • エフ=宝泉薫
  • 2016.09.10